この記事の目次
ざっくりいうと

- DCF法とは、その企業が将来にわたって稼ぐフリーキャッシュフローの金額をもとに、企業価値を計算する方法だ。
- 将来稼ぐフリーキャッシュフローは、現在の価値として計算する場合、適切な割引率で、割り引く必要があるぞ。
- 概念やざっくりとした計算式を覚えつつ、簡単に使えるようにアレンジしよう。
DCF法とは
DCF法とは、最も有名な「企業価値を計算する方法」のひとつです。
DCFは、Discounted Cash Flowの略ですから、割引キャッシュフロー法ということになります。
DCF法の計算式
細かい説明に入る前に、計算式を求めてきた方のために計算式だけ貼っておきます。
企業価値 = 現在のフリーキャッシュフロー / (割引率 – 成長率)
※なお、一般的には、企業価値 = FCF[1] / (r – g)と表されます。
計算式の意味を知りたい方は、このまま読み進めてください。
DCF法の計算式を解説!
さて、DCF法の計算式の内容を説明していきます。
その前に、DCF法を理解する上では、将来キャッシュフローを割り引くという考え方を理解する必要があります。
そこで、「将来キャッシュフローの割引価値」をまずは説明しますので、すでにご存知の方は飛ばして読み進めてください。
将来キャッシュフローを「割り引く」って?
将来キャッシュフローを割り引くとは、どういうことでしょう。
こんな例を考えてみましょう。
(例)将来キャッシュフローの現在価値って?
今年から5年間、毎年10万円をもらうことができます。
この権利の価値っていくらでしょう?
いかがでしょうか。
まず、最も簡単な考え方は「10万円 × 5年 = 合計50万円でしょ!」というもの。
大まかにはそうなんですが、ひとつ問題があります。
それは、この計算からは「金利」という概念が抜けている点です。
たとえば、あなたがお金を運用して年に2%増やせるとしましょう。
そうすると、現在の10万円は、5年後にはいくらになっているでしょう?
<現在の10万円は5年後にはいくら?>
年 | 金額 |
1年目 | 100,000 |
2年目 | 102,000 |
3年目 | 104,040 |
4年目 | 106,121 |
5年目 | 108,243 |
毎年2%ずつ増えると、5年目には10万円が、10.8万円程度まで増えています。
そう考えると、現在の10万円は、5年後の10.8万円と同じくらいの価値があるということになります。
それでは逆に、5年後の10万円は、現在いくらの価値があるでしょう?
<5年後の10万円は、現在いくら?>
年 | 金額 |
1年目 | 92,385 |
2年目 | 94,232 |
3年目 | 96,117 |
4年目 | 98,039 |
5年目 | 100,000 |
毎年2%ずつ資産を増やせるとすると、5年後の10万円は、現在の約9.2万円と同じ価値であることが分かります。
つまり、5年後の10万円を年2%で割り引くと、現在価値は9.2万円になるということです。
これが「将来キャッシュフローを割り引く」という概念です。
では、先ほどの例題に戻ってみましょう。
毎年10万円を5年間にわたってもらえる権利の価値を計算するには、それぞれの年にもらう10万円を割り引いて、現在価値を求め、それらを合計すれば良いのです。
<毎年もらう10万円は、現在いくら?>
年 | 1年目にもらう10万円 | 2年目にもらう10万円 | 3年目にもらう10万円 | 4年目にもらう10万円 | 5年目にもらう10万円 |
1年目 | 100,000 | 98,039 | 96,117 | 94,232 | 92,385 |
2年目 | N/A | 100,000 | 98,039 | 96,117 | 94,232 |
3年目 | N/A | N/A | 100,000 | 98,039 | 96,117 |
4年目 | N/A | N/A | N/A | 100,000 | 98,039 |
5年目 | N/A | N/A | N/A | N/A | 100,000 |
それぞれを年2%で割り引いて、1年目時点での価値を求めてみました。
あとは、これを足し合わせるだけですね。
480,773円。
これが、5年間にわたって毎年10万円を受け取る権利の価値です。
ここまで分かれば、DCF法は半分ほど理解できたも同然です。
企業価値は毎年のフリーキャッシュフローの合計
さて、DCF法では、その企業が毎年稼ぐ「フリーキャッシュフロー」の合計値が企業価値であると考えます。
フリーキャッシュフローとは
「フリーキャッシュフロー」とは、企業が毎年営業活動を通じて手に入れるお金である「営業キャッシュフロー」から、企業が活動していく上で必要な設備投資などを差し引いたあとに残ったお金を指します。
つまり、その企業が自由に使ってよいお金(= 株主に還元できるお金)です。
将来のフリーキャッシュフローは割り引く
さて、ここで先ほどの考え方が応用できます。
つまり、企業が今年稼ぐフリーキャッシュフローはそのまま企業価値の計算に用いれば良いわけですが、企業が来年、再来年、あるいはその先に稼ぐフリーキャッシュフローは、先ほどと同様に、現在の価値まで割り引いてから合計する必要があるわけです。
しかし、企業活動の場合は、先ほどの5年間というような縛りはなく、その企業が黒字で存続する限り、永遠にフリーキャッシュフローを稼ぎ続けます。
そこで、将来のフリーキャッシュフローを割り引いた合計値は、以下のような式で表せることになります。
合計値 =
1年目のフリーキャッシュフロー / (1 + 割引率)
+ 2年目のフリーキャッシュフロー / (1 + 割引率)^2
+ 3年目のフリーキャシュフロー / (1 + 割引率)^3
+ …
+ n年目のフリーキャッシュフロー / (1 + 割引率)^n
※「^」は「乗」、つまり「^2」は「2乗」を表しています。
毎年のキャッシュフローの額が一定の場合
さて、ここで、もしも毎年のフリーキャッシュフローが一定の金額であれば、つまり1年目〜n年目まで、ずっとフリーキャッシュフローの額が一定であれば、数学的には、以下のように整理できます。
合計値 = 1年目のフリーキャッシュフロー / 割引率
たとえば、毎年1万円をもらい続ける権利を、割引率を年2%で計算すると、以下のようになります。
合計値 = 1万円 / 2% = 50万円
毎年キャッシュフローが増えていく場合
さて、それでは毎年キャッシュフローが増えていく場合はどうでしょう。
毎年のキャッシュフローが何の法則もなくランダムに増えていく場合は、さすがに計算のしようがありませんが、毎年のキャッシュフローが一定の割合で増えていくと仮定した場合には、以下のような計算式に整理することができます。
合計値 = 1年目のフリーキャッシュフロー / (割引率 – 成長率)
たとえば、初年度は1万円、その後は毎年1%ずつもらえる金額が増えていく権利であれば、以下のように計算できます。
合計値 = 1万円 / (2% – 1%) = 100万円
さて、記憶力の良い方は、既にお気づきかと思いますが、「合計値 = 1年目のフリーキャッシュフロー / (割引率 – 成長率)」。
これこそが、DCF法における企業価値の計算式そのものです!
DCF法で企業価値を計算してみよう
さて、それでは実際の企業で、DCF法を用いた企業価値の計算をしてみたいと思います。
たとえば、みんな大好き「マクドナルド」の企業価値を計算してみましょう。
フリーキャッシュフローの求め方
まずは、フリーキャッシュフローを求めます。
フリーキャッシュフローの計算式は、以下の通りです。
フリーキャッシュフロー = 当期純利益 + 減価償却 + {支払金利 × (1 - 実効税率)} - 設備投資額 - 運転資金
めんどくさい。。。。
しかも、さらに面倒なことに、フリーキャッシュフローの計算には、上の計算式以外にも、いくつかの流派があります。(おわた)
そこで、今回は「Seeking Alpha」から数値を拝借したいと思います。

下から2行目に注目してください。
「Free Cash Flow / Share」とあります。これは1株あたりのフリーキャッシュフロー、つまりマクドナルドを1株持っていた場合に、その1株が1年間に生み出すフリーキャッシュフローを表しています。
以下、表に落としてみました。
年 | 実際の値 | 成長率6.5% |
2014年 | 4.23ドル | 4.23ドル |
2015年 | 5.03ドル | 4.50ドル |
2016年 | 4.96ドル | 4.80ドル |
2017年 | 4.58ドル | 5.11ドル |
2018年 | 5.43ドル | 5.44ドル |
合計 | 24ドル | 24ドル |
左側が、実際の1株あたりフリーキャッシュフローです。
しかし、見ていただければ分かるように、毎年一定の割合で増えていくなんてことはありません。増えたり減ったりとデコボコしながら伸びていっています。。
そこで、右側は2014年の1株あたりフリーキャッシュフローである4.23ドルが、毎年6.5%ずつ伸びたらと想定した場合の値です。
フリーキャッシュフローの成長率が6.5%だと、2014年から2018年にかけてのフリーキャッシュフローの伸び率と5年間のフリーキャッシュフローの合計が大体等しくなるので、今回はこの6.5%という数値を成長率として用いたいと思います。
割引率にはWACC(加重平均調達コスト)を使う
さて、続いては割引率です。
上の例では、2%という数値を仮で使っていましたが、実際の金融の世界では、WACCというものが用いられます。
WACC = {株主資本コスト × 株主資本の額 / 総資産の額 ] + {支払金利 × (1 - 実行税率) × 有利子負債の額 / 総資産の額]
めんどくさい。。。。。(2回目)
こうやって、面倒臭い概念を生み出すことによって、金融マンたちは自分の仕事を特権化して、暴利を貪っているというわけですね(違)。
さて、我々は文明の利器である「インターネット」をフル活用していきましょう。企業ごとのWACCは「Guru Focus」というウェブサイトで計算された値を見ることができます。

ということで、マクドナルドのWACCは4.47%だと分かりました。
DCF法に基づくマクドナルドの1株の価値は?
ということで、いよいよマクドナルドの企業価値(1株あたり)を計算するときがやってきました。
DCF法によるマクドナルドの企業価値
マクドナルドの企業価値(1株あたり)
= 現在の1株あたりフリーキャッシュフロー / (WACC – フリーキャッシュフローの成長率)
= 5.43ドル(=2018年の1株あたりフリーキャッシュフロー) / (4.47% – 6.5%)
…。
………..。
……………………。
「分母がマイナスになるやんけ!!!!!」
さて、こういうときに、金融の世界に身を置いている人間は、焦ることなく、「WACCは4.47%になってるけど、まあ実際は10%くらいかな」とかいって、感覚値をもとに勝手に数字を代入し、鉛筆をなめなめしているのが実情です。
DCF法によるマクドナルドの企業価値
マクドナルドの企業価値(1株あたり)
= 1年目の1株あたりフリーキャッシュフロー / (10% – フリーキャッシュフローの成長率)
= 5.43ドル(=現在の1株あたりフリーキャッシュフロー) / (10% – 6.5%)
= 155.14ドル
さて、マクドナルドの企業価値(1株あたり)は155.14ドルであると出ました。
マクドナルドの実際の株価を見てみましょう。

現在の株価は184ドル程度。半年前は150ドル程度でした。
なので、先ほどの計算によると、今の184ドル程度という株価は、少し割高かなという感じになります。
バフェットも割引率にWACCではなく10%を使っている
さて、先ほど割引率にWACCではなく10%を使いましたが、実は「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェットも、割引率には10%を使っています。
もっと正確にいうと、バフェットは、米国の30年国債の金利 or 10%の高い方を使っています。
個人投資家であれば、ざっくりと割高・割安が分かれば良いわけですから、10%を用いれば良いと思います。
DCF法をざっくりと用いて、バリュエーションのあたりをつけよう
さて、バリュー投資をする際には、細かいバリュエーションを正確に行なって、数ドル高い安いということは行う必要はありません。
ざっくりとバリュエーションを行なって、おおよそ割安なのか、フェアバリューなのか、割高なのかが分かれば良いからです。
バリュー投資というと、正確な企業価値を出そうと細かい計算に腐心しがちですが、ある程度はざっくりと計算しつつ、多くの銘柄に目を通したり、他のバリュエーションの方法とあわせて複数の観点から見てみたりする方が大切です。
DCF法も「企業が稼ぐ将来のキャッシュフローを割り引いて合計する」という基本的な概念はご理解いただけたと思うので、あとは自分なりに簡単にしたり、アレンジを加えたりしながら、活用してみてください。
どうも、キャプテンです!
投資好きな20代サラリーマン。
インデックス投資と米国株で1700万円ほど運用しています。